鼻痛のない鼻腔通過が経鼻内視鏡成功の第一関門
経鼻内視鏡の最大の偶発症は鼻痛です。鼻痛はスコープを鼻腔に挿入するときにもっとも発生しやすい。被検者にとっては検査開始直後に鼻痛を感じることとなり、検査への不安と検査医への不信感が一気に高まってしまいます。いかに鼻痛なく鼻腔を通過するかが、経鼻内視鏡が成功するかの第一関門です。
鼻腔挿入ルート
・3つの挿入ルート
経鼻内視鏡において鼻腔を通過する挿入ルートは3つあります。挿入ルートを常に意識しながら鼻腔挿入を行うことが重要です。現在、挿入ルートの名称は正式に決まったものはありませんので、施設ごとにいろいろな名称で呼ばれています。当研究所では、スコープが進む経路と下鼻甲介との位置関係から ① 中鼻ルート ② 中間ルート ③ 下鼻ルート(下図参照)と呼んでいます。
・中鼻ルート=メインルート
中鼻ルートは中鼻甲介下縁・下鼻甲介上部・鼻中隔で囲まれた空間です。中鼻甲介下端ルート、中鼻道と呼ぶ人もいます。
中鼻ルートは第一選択とすべき鼻腔挿入ルートです。周囲が比較的柔らかい鼻粘膜で囲まれているためルートをある程度拡張させながら挿入することが可能です。約80%の被検者が中鼻ルートで挿入されます。
・下鼻ルート
下鼻ルートは中鼻ルートが挿入困難なときに使用する第二の鼻腔挿入ルートです。鼻腔底は骨性ですのでルートを拡張しながらスコープを進めることはできません。約15%の被検者が下鼻ルートで挿入されます。
・中間ルート
中間ルートは中鼻ルート、下鼻ルートともに挿入困難な時にチャレンジする最後の挿入ルートです。約5%の被検者が中間ルートで挿入されます。
スコープ挿入ルートの選択
検査前あるいは検査中に挿入ルートを予測
鼻痛・鼻出血を誘発しないように鼻腔を通過するためには、検査前あるいは挿入中に挿入ルートを予測しておくことが重要です。「スティック法による鼻腔麻酔」では8%キシロカインを塗布した前処置スティックで麻酔された鼻粘膜を外れると麻酔程度は弱いので鼻痛を誘発するリスクが高くなります。そのため、前処置スティックが挿入されたルートをたどるようにスコープを挿入していきます。
・挿入ルートの予測法(初回検査時)
挿入ルートを予測する方法は以下の3つがあります。
1)前処置スティックの方向
鼻腔麻酔のときの前処置スティックの挿入された方向から推測します。この方法が最も実用的だと思われます。ただし、検査医が前処置にまったく関与しない施設では、前処置を行ったスタッフが予想される挿入ルートを検査医に伝達する仕組みを作る必要があります。当研究所は、検査医自身が2回目の前処置スティックを抜去して挿入ルートを確認しておくことをお勧めします。
2)前処置スティックによる鼻粘膜の発赤ライン
鼻粘膜には写真下のように挿入ルートに沿って前処置スティックによるわずかな発赤を確認することができます。この前処置スティックによる摩擦痕を確認しながらスコープを進めます。
3)スコープで挿入ルートを確認
スコープを鼻前庭に挿入した後、3つの挿入ルートを観察してもっとも挿入できそうなルートを判断してスコープを進めます。ただし、この方法は検査医にかなりの経験がないと実行は難しい方法です。鼻痛を誘発するリスクが高いのでお勧めでる方法ではありません。
・2回目以降の検査は前回の挿入ルートを参考にする
鼻腔挿入法
1.外鼻孔から鼻前庭へ
鼻腔挿入直前にストレートな先端可動部に 5~10°のわずかにアップをかけます。スコープをノーズピースを抜け鼻前庭にスコープを進めます。鼻前庭に残っているビスカスがレンズ面に付着しないように注意して鼻前庭を通過します。
2.鼻腔の垂直軸とモニターの垂直軸を合わせる
鼻前庭を抜けて前方の下鼻甲介を確認したら、挿入ルートに進む前に鼻腔内を観察して鼻腔の垂直軸をモニターの垂直軸に一致するようにスコープ位置を微調整します。スコープを軸回転するときは右手で捻るのではなく、左手でグリップごとゆっくりと軸回転します。
3.スコープの方向調整は右手を使う
鼻腔通過時のアングル操作はわずかなアップアングルのみで左右アングルは使用しません。スコープの進行方向を変えたいときは、アングル操作を使用するのではなく、スコープを把持する右手をわずかに動かすことで対応します。右手をどのように動かせばスコープの進行方向がどのように変化するかを理解し、無意識で操作できるように修得しておく必要があります。
4.中鼻ルートへの挿入法
①スコープを顔面に対し頭側45°の方向に進め“中鼻甲介前下縁”(下図★印)を確認します。
②先端可動部のアップアングルをわすかに強くしスコープ軸を中鼻ルートは合わせます。
③中鼻ルートの狭窄部をスムーズに通過するためには、スコープ軸を中鼻ルートに完全に一致させることが重要です。アングル操作によってスコープ軸と挿入ルートを一致させることはまず不可能です。当研究所がお勧めしている方法は、スコープ全体を1~2cm程度頭側に平行移動しする方法です。この操作によって、スコープが外鼻孔上縁を支点(下図の赤▼)にしてスコープの遠位側が尾側に曲がり鼻腔に対して水平となります。
⑤スコープが後鼻孔に達したらアップアングルをかけて上咽頭に向かいいます。
5.下鼻ルートへの挿入法
①鼻前庭を通過後、スコープを顔面に対してほぼ垂直方向に向けていきます。鼻腔底(下図★)を確認します。
②鼻腔底に沿ってスコープを進めます。
6.中間ルートへの挿入法
①鼻前庭を通過後、下鼻甲介の側面と鼻中隔によるスリット状の空間の確認します。